■成人のADHDADHDは、ある意味、仕事で成功するためには不可欠な障害であるとも言えます。創造にあふれ精力的に仕事をこなしていくにはADHD的な要素が不可欠だからです。その特性が周囲の対人関係において順調に機能しているときは病識は(さほど)感じませんが、ひとつ歯車が狂い仕事が回らなくなってくると、その障害に直面せざるを得なくなります。(ここが躁うつ病とは違うところです。)
さて、大人のADHDはどのようなところに現われてくるのでしょうか。主に、次の3つのことに着目すると、その様相がわかります。
.札奪スの問題
⊃場での問題
趣味の問題
.札奪スの話はなかなかしにくいところがあるかと思いますが、この部分にまず典型的なADHD的なものが現われやすいものです。女性、男性に限らず、ADHDの方は、性欲が亢進しやすい。そして何回しても満足できない傾向があります。肉体的にはすっきりしてはいるのですが物足りなさがあるのです。これは性欲が満たされないのではなくて、セックスに集中できないためです。セックスの最中、翌日の仕事のことを考えていたり、テレビの音などに気がそれてしまって集中ができない傾向があります。それが物足りなさを導くのです。
男性の場合は、前戯や後戯や抱擁などをおざなりにして、挿入を急いだりします。セックスは、相手とのスキンシップを楽しみながら愛撫をし合い、お互いを確認しあうところに快� ��があるのですが、それをやらないのです。その上、退屈しやすい性質のため、飽きが来てしまい勃起したペニスが途中で萎えたりします。(これはADHDの症状に特有のものではなく不安・その他の症状から来ることもあります。)退屈しやすいため、刺激を求めずにはいられなくなり、異常なプレイや乱交などリスクの高いセックスに走ることもあります。
セックスの話は、お互いにパートナー同士でよく話し合うことが必要です。お互い、とても気持ちのいいセックスをしたときもあるはずです。そのことを十分に話し合うことが大切です。例えば、男性が女性に向って、人形とセックスしているように感じると話したとき、女性は、そのときは気乗りしなかったのだ、と答えるかもしれません。そういう話し合いからセックスの問 題が解消していくきっかになることがあります。セックスの問題は、パートナーにとって大切な問題ですので、放っておくわけにはいかないのです。
パートナーとの関係においてADHD的な傾向はセックスにおいて典型的に出てくるものですが、日常生活でも色々な問題を引き起こします。
だらしがない、とはよく聞かれる訴えです。他の人が楽しいと思うことを楽しめないという抑うつ症状のような訴えも典型的なものです。これはADHDからくる感情の不安定さによってアンヘドニア(失感情症)の状態になっているためです。ちょっと見ただけでは、うつ病と大差ありません。実際、遷延うつ病(長びくうつ病)と診断されている方の中にも、うつが中核の症状ではなく、ADHDがその中核症状である方もいらっしゃるわけです。「� �に向って話している」ように感じると言われる場合、その人にはADHD傾向があるのかもしれません。
大人のADHDの症状の多くは職場で現われます。
次の5つのことをチェックしてください。
1.報告書や交際費などの雑務的な報告書の提出が遅れる常習犯である。
2.計画を立てても、締め切りに間に合わせて仕事をやり遂げられない。
3.騒音が気になる。壁のないフロアで仕事ができない。部屋のように壁で区切られた空間が必要である。
4.仕事の全体像をとらえるのは得意だが、細かなことになると失敗する。
5.何度も同じことを繰り返す作業ができない。苦痛である。
これらの5つのことは、ADHDでない人にも当てはまりますが、これら5つ「すべてに」該当する場合、ADHD傾向がかなり強いと思われます。
社会適応がうまくできているADHDの人は持ち前のエネルギーでバリバリ仕事をこなしていくために、上のような苦痛を持っていても、なんとか仕事をこなしていくことができます。その意味では、ADHDの人がやれない職種はないとも言えます。それだけ能力をもった障害であるわけです。不注意、衝動性、多動性、散漫性がいつも生活に現われるわけではありませんし、その障害を補うだけの社会性と性格的長所を、大人のADHDの人は備えていて、社会適応ができるのです。
社会適応の例としては、報告書を書くための時間を一週間� �うち半日、どこかの曜日に取っておく、騒音が少ない朝方の出勤形態に変える、同じような仕事でもどこかに違う要素を含めてメリハリを自分で工夫する、など、自分の弱点をコントロールすることは、やり方次第で可能なのです。
職場のADHD傾向は、ジョブコーチ的な視点に立って、自分で自分をコーチしながら、自分に合ったやり方をカウンセラーと一緒に見つけていくやり方が効きます。
趣味の問題として、ADHD傾向のある大人は、スカイダイビング、バンジージャンプ、ギャンブルなど危険な娯楽に興じる傾向があります。ハリウッド映画の架空のスーパースター・インディージョーンズ。彼は典型的なADHDと言えるでしょう。
これらの3つの傾向はいつもどこかに現われるわけでなく、社会適応しているため、ほんの 限られたときにポツポツと現われるにすぎません。それよりも、うつ病や境界性パーソナリティ障害との誤診を気をつけなければならないでしょう。
しかし、これらの3つの傾向は、ADHDでなくとも、どなたも大なり小なり持ち合わせているものです。DSM-IV-TRのADHDの診断基準は別の記事でご説明しますが、そこではADHDの診断基準となっている出現頻度は「しばしば」というあいまいなものです。しばしば毎日の活動を忘れてしまう、という表現なのです。この「しばしば」をどのようにとらえるか。これは個人によっても異なりますし専門医によっても異なります。つまり、ある医者はADHD、ある医者はADHDではない、自分本人としてはADHD傾向があるように思う、このように診断が分かれる可能性がある障害なのです。
ですから、AD HD傾向というものは、障害としてとらえるより状態としてとらえたほうが、成人のADHDの方にとっては生きる術(すべ)を開拓していくうえでは良いのではないかと思います。別の記事で書いていますが、アダルトチルドレンというのは障害ではなくて状態です。それと同じようにADHDは障害ではなく状態としてとらえるのです。これによって、ADHDの有効利用ができてくるのではないかと、自称ADHDの私は思うのです。
これはADHDだけに限りません。成人の発達障害は、障害としてとらえるのではなく状態としてとらえる、という戦略を取ったほうが、その状態を有効利用していける可能性が飛躍的に大きくなると思います。
さて、話は前後しますが、これら3つの傾向は、ADHD特有の次の4つの中核症状から現われてくるものです。
○散漫性
○衝動性
○多動性
○不安定な感情(注意力障害)
○散漫性とは、現在していることと無関係な音や目に入るものに気を取られやすいことです。このため記憶がなかったり、作業に集中できず、他人の指示に従えなかったりします。周囲の人にとっては、この行為が受動攻撃性パーソナリティ障害に近い言動に映ったりします。この散漫性による記憶の問題は、過去の出来事から自分の体験を呼び起こしてそれを利用して事に当たるということができないことをもたらします。つまり、何度言っても覚えない、何度やっても学習できないという事態です。また繰り返しの単調な作業をやり遂げることができません。
散漫性により色々なものに気を取られるのですが、自分の内面でわき上がる考えや空想に心を奪われてしまうとボーッとした印象があ ったり、周囲で起こることにほとんど無関心なように見えたりもします。この部分だけを取り出すと、解離性障害と誤診されることもあるのでしょう。
ADHDの人は小中学校の成績はよくて、高校になってからガクンと落ちることがあります。これは小中学校の課題は比較的簡単なことと、指示もはっきりしているためにやりやすいということがあります。高校や社会人になると、課題も複雑になり答えを得るにも幾つもの選択肢があり何をやっていいのか迷うときがあります。そのときADHDの人は困難に直面するのです。
○衝動性とは、場にそぐわないことを不用意に口走ったり、急に怒りを爆発させることです。強い刺激を求め、危険なことをしたり、薬に走ったり、交通違反、ギャンブル、アルコールや麻薬の乱用に興じたりし ます。過剰な性欲、衝動買い、クレジットカードを乱用する、順番が待てない、趣味のものを過剰に収集するマニア癖などがあります。辛抱ができず、すぐに結果を求めてしまう傾向があります。情報を充分に吟味せずに成り行きで行動するため、周囲の人がそれに振り回される結果になってしまい、対人関係に大きな問題を発生させてしまいます。
○多動性とは、落ち着きのない行動です。ADHDの人が成人になると、身体をもじもじさせたり、べらべらとしゃべったりなどの傾向は収まってくることが多いです。しかし、一定時間座ったりしている場で、心の内側で緊張感が高まったりします。多動としては現れませんが、心の中で多動傾向にスイッチが入っている状態です。息を止めているような感覚を味わう方もいます。子ども� �頃からのチックをそのまま持ち越して成人になる人もいます。チックの頻度は減っているのですが、それときっぱり別れているわけではない状態です。落ち着かなさを鎮めるために、始終に口の中に食べ物を放り込んでいるようなことも、多動の代償行為と思われます。
ADHDの成人は活動あることをしたり、しゃべり過ぎたり、せっかちな応答をしたりすることを隠している場合があります。そのために心では尋常ならぬ緊張感に支配されてストレスがかかりっぱなしになっているのです。
○あるときは不機嫌だったのに突然興奮するように気分が変わりやすいという、感情の不安定さを持つこともADHDの人の特徴です。気持ちがコロコロと変わるのです。この気分変動は何か原因がなく発生するときもありますが、日常のささい� �ストレスでスイッチが入るときもあります。このスイッチの入り方は突発的で、自分ではどうしようもできない状況に追い込まれると、簡単にスイッチが入って落ち込んでしまいます。