2012年4月23日月曜日

NA140SSf鏡筒 / StarWatching750


NA140SSf鏡筒 / StarWatching750

◎Vixen NA140SSf鏡筒


口径14cmF5.7アクロマートf=800mm
何気ないスペックに秘められたビクセンの想いは?

○f=800mm
理想のオールラウンド望遠鏡を設計しようとする時、まず倍率は最重要のファクターになります。

オールラウンドであれば、ただの低倍率のみならず、小型双眼鏡のすぐ上のレンジ、いわゆるディープスカイ倍率である10〜25倍をカバーしたい。
低(〜60倍)〜中倍率(150倍)ではもちろん、様々な星雲星団を楽しませてくれること。
150〜200倍では惑星の主力レンジ。
そして最高のシーイングの日には、思い切って200〜400倍かけてみたい。

この条件を満たそうとする時のひとつの典型的な焦点距離が、この800mm。
2インチアイピースが普及した現在、標準的な見掛視野が取れる2インチアイピースの最長焦点は56mm。この時の倍率が14倍。
そして、40mmで20倍。このクラスは見掛視界60〜70度の広視界型アイピースが多数あります。
焦点距離800mmならではの快適なディープスカイ倍率です。
高倍率、短焦点側では5mmのアイピースで160倍、4mmで200倍。良質なバローレンズ併用でさらにその上の倍率。

焦点距離600mmであればなお下の倍率が出せますが、良像を出せるF値を考えると600mmでは頑張っても12cmあたりが精一杯。
その上の大口径を実現するため、800mmは必然ともいえるのです。

そしてこの800mmから導かれる鏡筒長は、鏡筒後部からのぞくことになる屈折望遠鏡において、あまり自動導入を使いたくないディープスカイ倍率やお気軽ベランダ観望で、様々な方向に望遠鏡を向けつつ、架台のクランプに無理なく手が届く使い易さという点でも極めて適当なサイズです。

○F5.7
このあまり馴染みのないF値は何を意味するのでしょう?


光の偏光を生成する方法

有効な低倍率性能を発揮しようとするとき、常に意識されるのは、7mmという射出瞳径。望遠鏡の口径を最大限生かせる最低倍率というわけです。
容易に入手できるアイピースでこの倍率を出したい、それもできれば広視界型アイピースで。これはユーザの誰もが思うところでしょう。
F8で56mmのアイピースを用いれば射出瞳径は7mmです。しかし、56mmの広視界型アイピースはありません。
そして、一般に広く売られている最も長い広視界型長焦点アイピースは、先程も記したとおり40mmなのです。
そして、この40mmで射出瞳径が7mmになるF値、それがF5.7なのです。
いかがですか?この望遠鏡のすごさがだんだん判ってきたことと思います。もし、F値がF5であれば射出瞳径が7mmになるアイピースはなかなかありません。そしてもちろんF5.7はF5に比べ良像を出すのにも有利です。こうして熟慮されたF値、それがF5.7なのです。

○14cmという口径
以上みてきたように必然とも言える焦点距離800mm、F5.7というスペックですが、ここからもはや自動的に口径140mmが導かれます。
すなわち、
  口径=800mm÷5.7=140mm(!)
まさに、ひとつの理想を求めて得られた解なのです。


我々は差が絶対値であると言うことができます

○ライバルは15cmF5,f=750mm
ここで、NA140に興味ある人なら誰でも気になる、15cmF5との比較をしてみましょう。
言うまでもなくF5.7はF5よりシャープネスを追求する上で有利です。
設計・精度・製造の容易さ、アイピースへの入射角と像質。
もちろんF8などなら遥かに有利ですが、ディープスカイ倍率は不可能ですし、操作性も可搬性・収納性も良いとは言えない長さと、気合のいる重量となります。
NA140では40mmで射出瞳径7mm。これは既に記しました。
F5では35mmで7mmですが、どういうわけか35mmの広視界アイピースはあまり作られておらず、選択肢がありません。あのテレビューのパンオプティック35mm位でしょうか。高性能ですが、大きく重く高価なアイピースです。
ここで、ディープスカイ観望における実効口径を見てみましょう。
ディープスカイ用に誰もが揃えるアイピースといえば、
  2インチ40mm(或いは42mm)
  2インチ56mm(或いは50mm)
でしょう。
どのアイピースでも射出瞳径は7mmかそれ以上になりますので、7mm越えの分は無駄になります。
すると、実効口径は、
40mmの時、
  NA140では、(7mm)x(800÷40)=140mm
  15cmF5では(7mm)x(750÷40)=131mm
56mmの時、
  NA140では、(7mm)x(800÷56)=100mm
  15cmF5では(7mm)x(750÷56)=94mm
何と、より大口径の筈の15cmの方が実効口径では劣ることとなってしまいました。
もちろん、35mm以下のアイピースでは、どちらもフル口径が生きるわけですが、瞳孔が7mmまで開かない場合、6mmとか5mmの時は、より高倍率で同じような逆転現象が起きるのです。
ということで、NA140のディープスカイ特性の良さがお判りいただけましたでしょうか。
特別な技術によるのではなく、単にスペックの妙味。というところに設計者の思い入れが見て取れませんか?


どのようにレオナルド·ダ·ヴィンチは、PIに接続されていますか?

○ネオアクロマート
レンズの形式に言及せずして既に十分興味深いNA140ですが、いうまでもなくその特徴のひとつはこのネオアクロマートという形式でしょう。
テレビューのペッツバール式鏡筒を彷彿とさせるような前群・後群分離の4枚構成。しかしその目指すところは無収差アポクロマートでもなんでもなく優秀なアクロマート。メーカー広告の主張するところも、
「各レンズにパワーを分散することにより、短焦点にもかかわらず球面収差、画像湾曲を従来のアクロマートの1/3から1/5に抑え、シャープな中心像と優れた周辺像(アクロマートの1/3、60ミクロン以下)を実現しています」
といったものです。
実際、焦点像はかなりシャープで、ピントを合わせる時、同クラスの焦点距離のニュートン反射を思い出させるような硬い像感がありちょっと快感です。周辺像はかなり良く、中でも驚いたのは、あの短焦点に弱いといわれるワイドスキャン30mmで周辺まで非常に良像だったことです。WS30はどうも短焦点に弱いのではなく、像面湾曲に弱かったということなのでしょうか。
しかし、シャープでも確かにアクロマート。シリウスなどの輝星を見ると、青ハロが。そのギラギラした様子には太陽の灼熱を思わされます。
高倍率では、恒星回折像はさすがに良くできたアポ屈折やマクストフニュートンには及ばない感じで、恒星のジフラクション像のエアリーディスクと第一回折リングに光が集中というわけには行きませんが、惑星ではシーイングの良い日の土星像では300〜400倍かけても像は破綻することなくしっかり見えていました。明るさがありますので双眼装置での惑星観察にも好適で、唖然とするほどリアルでシャープな土星像が見られました。木星でも縞を斜めに横切る暗柱など高い明暗分解能が必要な対象もなかなか良好です。TOA130Sとサイドバイサイドで見比べてもかなり肉薄しており、あらためてこの鏡筒の優秀さを感じさせられました。TOAの像に青ハロを加えたような、そんな感じでしょうか。
惑星と言えばやはり気になるのは外気順応速度でしょう。この口径で4枚構成であることもあり普通の2枚玉アクロマートよりは時間がかかるようです。この辺はネオアクロマートの惜しいところでしょうか。惑星だけは、実力発揮まで少しまってネ。という感じです。それでも、他の形式の望遠鏡も含めて考えれば遅い方ではありませんし、反射系のように光路が筒内を往復するものでもないので、日々使う中では良い惑星像に会える確率はわりと高いのではないかと思います。


○もうひとつのライバルMN−61
15cmマクストフニュートンMN−61と言えば俗称アポキラーとも言われ、同口径のアポ屈折をも凌ぐ惑星像との噂で有名な望遠鏡ですが、決して惑星専用機ではなく、低倍率の星雲星団観測にも極めて優秀な特性を持っています。
マクストフニュートンに限らずマクストフカセグレンも含めマクストフ式望遠鏡の特長は非常にコントラストが良いことが挙げられます。このため、散光星雲の淡い部分や系外星雲など背景の雑光に埋もれにくくなかなか感動的な像を見せてくれます。
ディープスカイ倍率では通常反射系望遠鏡は中央遮蔽のため射出瞳径5mm程度以上では視野中央が黒くなって使用できない場合が多いのですが、MN−61では極小中央遮蔽により低倍率も得意です。

光量
NA140は14cmですから口径で劣るのですが、MN−61はマクストフレンズ以外にも2回の反射による光量損失があります。その結果、特別に増反射コーティングを施したMN−61DXと比べてもあきらかにNA−140の方が散開星団など、星が明るく見えます。

コントラスト
MNは優秀な大変高コントラストな望遠鏡です。出来の良いアポ屈折に並ぶでしょう。
これに対しNAは屈折ならではのコントラストの良さは有しますが、アクロマート故のハンデは隠せません。
アクロマートは補正されずに飛ばされている光の成分があり、これは通常見てもあまりわかりませんが背景の雑光となっています。優秀なアポだとこれが視野内の大小様々な光源にきちっと収束し視野を明るくしませんので高コントラストです。例えばオリオン大星雲などを見ても鳥の翼のように広げられた光のベールの端の方のすうっと伸びていく様子は、いつの間にか背景の光りに埋もれる感じで、ギリギリまでディティールが感じられるものではありません。
ただ鑑賞的には好みの分かれるところで、それは光のベールを見るvsガスを見るみたいな違いでしょうか。NAが光量に勝る点も助けています。

低倍率
MNも極小中央遮蔽によって低倍率は得意です。しかし、NAの焦点距離800mmに対しMNは900mmありますからディープスカイ倍率では少々不利です。が、ディープスカイに特にこだわりを持つのでなければ、大差ないと言って良いでしょう。


周辺像
どちらもベースの光学系、アクロマート屈折、ニュートン反射に対しもう一群のレンズを加えることで収差を数分の一にしているという、ある意味似た者同士です

高倍率像
非常にシーイングが良いとして、鏡筒が十分に外気温順応を終えているなら、やはりMNです。最高の惑星像に出会えるチャンスを重視するならMNでしょう。日常の観望では像の安定性も外気順応性もNAにやや分がありそうです。どちらもシャープで高倍率にも強い鏡筒です。
双眼装置の使用にも向いています(バローレンズ要)。

重量
例えばNAは何とかポルタにも載りますが(メーカー公称スペックでは重量オーバーです。搭載可能を保証するものではありません)、MNは無理です。しかし、MNでもGPクラスの赤道儀で何とか使用可能で、大きな差はありません。

 

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